もしも研究所

もしも、土方歳三が箱館で戦死しなかったら?

もしも時間 · 2026-06-14 · 約3,400字 · 約7分

明治2年5月11日(西暦1869年6月20日)、早暁。

蝦夷地・箱館。

旧幕府軍の拠点・五稜郭は、新政府軍の総攻撃にさらされていました。新選組副長として鳥羽・伏見から会津、そして蝦夷地まで戦い続けてきた 土方歳三 は、この日、額兵隊らを率いて市中の 一本木関門 付近に向かいます。

新政府軍の艦砲射撃と陸戦隊が押し寄せるなか、土方は退却してくる味方を支え、関門で敵を食い止めようとしたところで銃弾を受け、馬上から落ちて絶命したと伝わります。享年35。

それから一週間後の5月18日、五稜郭の旧幕府軍総裁 榎本武揚 らは降伏します。旧幕府軍の幹部の多くが投降して生き延びるなか、土方は最後まで降伏せず、戦場で命を落とした数少ない指導的人物の一人でした。

戊辰戦争(1868〜1869)が終わり、明治という時代がまさに始まろうとする、その入口での退場でした。

ここで、本記事の「もしも」を立てます。

もし土方が、この箱館での戦いを 生き延びていたら——降伏後の彼はどう処遇され、明治という時代をどう生きた可能性があるだろうか?

🌀 The IF Lab 編集部より:

本記事は、史実(土方が箱館・一本木関門付近で戦死した)を踏まえた上で、その戦いを生き延びて投降していたという限定条件で反実仮想を行います。「戊辰戦争が起きなかった」「新選組が勝った」のような前提崩壊型ではありません。あくまで土方本人が 降伏して数十年長く生きていたら という、人物の生存条件にだけ手を入れるシナリオです。なお、「鬼の副長」と呼ばれた厳格な隊規(局中法度)のイメージなど、新選組には後世の小説・映像による脚色が多く混じっています。本記事では、確定できる史実と伝承・創作を、できるだけ切り分けて扱います。


1. 実際に起きたこと(史実の確認)

土方が箱館で倒れるまでの流れを、最小限に整理します。

新選組副長としての土方

1868〜1869年:敗走と転戦

蝦夷の旧幕府政権

1869年:箱館戦争と土方の戦死

ここで重要なのは、土方が退場したのは、旧幕府軍の敗勢がほぼ決していた局面だったということです。本記事の「もしも」は、その敗北の後に彼が生きていたら何が起き得たか——という限定条件です。


2. 分岐点 ——「最後まで降伏しなかった男」が降伏したら

土方の最期の特異性は、彼が 敗北が見えてもなお降伏せず、戦場で死んだ という点にあります。

榎本武揚をはじめ、蝦夷地の旧幕府軍幹部の多くは、最終的に新政府軍に投降しました。降伏は、当時の武士の価値観のなかでは恥とされる場合もありましたが、結果として彼らの多くは生き延び、なかには後に新政府で要職に就いた者もいます。

土方は、その選択をとらなかった——あるいは、とれなかった人物でした。盟友・近藤勇が捕縛のうえ処刑された経緯を見ていた土方にとって、投降して新政府の手に委ねられることが、どのような意味を持っていたかは想像に難くありません。

IFの前提

ここでの「もしも」を、具体的に絞ります。

明治2年5月11日の戦いで土方が銃弾を免れ、五稜郭の降伏(5月18日)に際して、榎本らとともに投降して生き延びていたら——。

これは「最後まで戦った新選組副長が、敗者として明治を生きることになったら」という条件です。武士としての美学を貫いて死ぬのではなく、生き延びて時代の変化に向き合わざるを得なくなった土方、という設定です。

過大評価・美化への注意

ここで強くhedgeしておく必要があります。

したがって本記事は、土方の生存を「明治を動かした」という英雄譚にはしません。あくまで 一個人の生存が、敗者の処遇という史実の幅のなかでどう収まり得たか を、控えめに見積もる立場をとります。


3. 世界はどう変わるか(短期・中期・長期)

短期(1869〜1870年代前半):投降と処遇

土方生存の世界線で、まず問題になるのは 降伏後の処遇 です。

中期(1870年代):士族反乱との距離

ここが、土方IFの最も緊張する論点です。

長期(明治後期〜):明治国家の「形」は変わったか

最も慎重に語るべきなのが、この長期です。

つまり長期では、「国家の形は変わらないが、一人の敗者の人生に、別の続きがあり得た」という、抑制的な結論 が穏当だと考えます。


4. 史実では、なぜ起きなかったか

ここで、史実に戻ります。

土方が箱館で生き延びられなかった背景を、リアリティチェックとして整理しておきます。

  1. すでに決していた敗勢:箱館戦争の最終局面では、旧幕府軍は海軍力(開陽丸の喪失など)でも兵力でも劣勢で、勝機はほぼありませんでした。総攻撃を受けた五稜郭側は、降伏か玉砕かの二択に追い込まれていました
  2. 土方が選んだ戦い方:土方は、退却してくる味方を支え、敵を食い止めようと最前線に立った末に倒れたと伝わります。指揮官が安全な後方ではなく前線に出ていたこと自体が、戦死の確率を高めました
  3. 降伏という選択の重さ:盟友・近藤勇が捕縛・処刑された経緯を見ていた土方にとって、投降は近藤と同じ末路を意味しかねないものでした。最後まで戦う以外の道を、彼が現実的な選択肢として持っていたかは疑わしいのです

つまり、土方の死は単なる不運ではなく、敗勢の戦局 + 前線に立つ指揮スタイル + 投降を選びにくい立場 という条件が重なった結果であり、後世から「もし」を立てやすい最期になっている——という整理が、現代の標準的な見方に近いと思います。


5. ありえた世界線——もう一つの『1869年』

仮に、土方が箱館の戦いを生き延び、降伏して明治を生きていたら——その後の彼の人生は、おそらく次のような特徴を わずかに 帯びたかもしれません(英雄譚に寄せすぎないよう、控えめに記します)。

これは「もし」の限定条件下で導いた一つの解釈にすぎず、史実とは異なります。そして、ここで挙げたいずれもが 確定ではなく可能性 であることを、改めて強調しておきます。土方一人の生存が世界を作り替えるのではなく、一人の敗者の人生に、語られなかった続きがあり得た——その程度の見積もりが、最も誠実だと考えます。


6. 最後の問い

歴史に名を残す最期には、しばしば「美しい死」という形があります。土方歳三が箱館で最後まで戦って死んだという事実は、戦後の創作とも結びついて、「義に殉じた武士」という鮮烈なイメージを残しました。

けれど、もし彼が生き延びていたら——敗者として、時代に適応するか抵抗するかの選択を、長い余生をかけて引き受けることになったはずです。それは「美しい死」よりもずっと地味で、ずっと難しい生き方だったかもしれません。

榎本武揚は、その難しい生き方を選びました。敗者として投降し、赦され、新国家の建設に回り、毀誉褒貶を引き受けながら生き続けました。土方が同じ道を歩めたかは分かりません。歩めなかったかもしれません。

だとすれば、問われているのは「もし土方が生きていたら」ではなく、敗北のあとを生き延びて、変わった時代に居場所を作り直すことの重さ ——なのかもしれません。

私たちもまた、何かに敗れたあと、貫いて散るのではなく、生き延びて作り直すという、地味で難しい選択肢を、自分に許しているでしょうか。


この「もしも」を、別角度で楽しむ

土方歳三・新選組・箱館戦争は、漫画・歴史小説・映画でも多角的に描かれてきました。本記事の反実仮想と読み比べると、幕末の人物像と創作イメージの差分が、より立体的に見えてきます。

映像で深掘りする選択肢

新選組・幕末を題材にした大河ドラマや時代劇は、NHKをはじめ民放各局でも繰り返し制作されてきました。スカパーの時代劇専門チャンネルでは、過去の大河ドラマ・時代劇作品が放送・配信されており、ひとつの選択肢として挙げておきます。


🌀 編集部メモ:

本記事は反実仮想(歴史IF)です。事実関係は幕末・維新期の通説と近年の研究を参照していますが、解釈・推論部分は IF Lab 編集部の独自整理です。土方歳三の最期の詳細(一本木関門付近での戦死)、新選組の隊規や「鬼の副長」像、蝦夷地の旧幕府政権の性格——いずれも、確定した史実と後世の創作・通称が混在しています。

📚 諸説ある題材です

土方歳三の戦死の細部、新選組の規律や人物像、「蝦夷共和国」という通称の妥当性、降伏した旧幕府方がなぜ赦免されたか——いずれも、研究者の間で議論や諸説があります。とりわけ土方は戦後の小説・映像によって像が大きく膨らんだ人物であり、本記事では創作イメージと史実を切り分け、確定できない事項(とくに「生きていたら士族反乱に加わったか」)は両論併記とし、hedge する立場を一貫してとっています。

※別の解釈・反論も歓迎しています。気持ちよく読める形でいただけると嬉しいです。


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