もしも研究所

もしBlockbusterがNetflixを買収していたら、ストリーミングは違ったのか

もしも時間 · 2026-10-04 · 約3,021字 · 約6分

この記事は、特定の個人や企業を断罪するためのものではありません。 公開されている資料や報道をもとに、ある時代の選択肢を振り返る思考実験です。 実際の歴史は一つの判断だけで決まるものではなく、 経済・技術・制度・人間心理が重なって動きます。


まず事実——2000年の「伝説の会議」

2000年頃、Netflixの共同創業者リード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフは、ブロックバスター本社を訪問した。当時のNetflixはDVDを郵便で貸し出すサービスで、年間売上は数百万ドル規模の小企業だった。

ヘイスティングスはブロックバスターのCEOジョン・アンティオコに「5,000万ドルでNetflixを買収しませんか」と提案した。アンティオコはこの提案を断った——という話は、後年のビジネス書で繰り返し引用される「歴史的な判断ミス」の代表例になっている。

ただし、この逸話の詳細については「正確な金額」「交渉の雰囲気」などについて若干の異なる証言もあり、すべての細部が確定事実というわけではない。確かなことは、ブロックバスターがNetflixを買収しなかったという事実と、その後の両社の命運が大きく分かれたということだ。


ブロックバスターとは何だったのか

1985年創業のブロックバスターは、1990年代に米国最大のビデオレンタルチェーンに成長した。全盛期には全世界に約9,000店舗を展開し、従業員数は約60,000人を超えたとされる。

そのビジネスモデルは「延滞料」を中心に成立していた。ビデオを返却期限より遅く返した顧客から取る延滞料が、収益の重要な柱だった。顧客にとって「延滞料」は不満の種だったが、ブロックバスターにとっては安定収益だった。

一方のNetflixは1997年創業。当初はDVDの購入・レンタル両対応のオンラインサービスだったが、1999年に「月額定額・延滞料なし」のサブスクリプションモデルに転換した。延滞料をなくしたNetflixのモデルは、顧客の「ブロックバスターへの不満」を直接解消するものだった。


分岐点——なぜブロックバスターは断ったのか

2000年時点でブロックバスターが見ていた世界は、以下のようなものだったと推測できる。

DVDの郵便レンタルは「ニッチなサービス」だった。全米の主要都市に店舗網を持つブロックバスターにとって、郵便で届けるDVDを待つ層よりも「今夜すぐ借りたい」顧客の方がはるかに多かった。5,000万ドルというNetflixの提示価格は、当時の同社の業績規模からすれば割高に見えた可能性がある。

また、ブロックバスターは当時、Viacomへの売却・独立・店舗拡大という路線の中にあり、経営資源の配分優先度として「郵便レンタルの小会社を買う」という選択が最優先事項にはならなかったと考えられる。


IFルートA——買収後に「郵便レンタル部門」として吸収されていたとしたら

ブロックバスターがNetflixを5,000万ドルで買収し、「郵便レンタル部門」として位置付けていたとしたら——。

最も現実的な展開として考えられるのは、ブロックバスターがNetflixのサブスクモデルを「店舗レンタルの補完サービス」として活用するシナリオだ。既存の9,000店舗ネットワークとNetflixの会員基盤・ロジスティクスを組み合わせることで、2000年代前半には強力な会員制レンタルサービスが生まれていたかもしれない。

しかしここで重要な問いが立つ。ブロックバスターはNetflixの「延滞料なし」モデルを維持できたか——。延滞料がブロックバスターの収益構造の一部だったとすれば、買収後の方針転換によってNetflixモデルが骨抜きになっていた可能性がある。


IFルートB——ストリーミング時代に「ブロックバスターNetflix」が覇権を握っていたとしたら

より大胆な仮定として、ブロックバスターがNetflixを買収した上で、2005〜2007年頃のストリーミング技術の成熟に合わせて「オンライン動画配信」へ戦略転換していたとしたら——。

ブロックバスターは映画スタジオ各社との長年の関係と、膨大な利用者データを持っていた。もしNetflixの技術チームとブロックバスターの業界人脈が組み合わさっていれば、コンテンツ調達においてHulu・Amazon Primeより有利な立場を作れた可能性がある。

ただし、ブロックバスターは2004年頃から多額の負債を抱えており、大規模な技術投資を同時に行うための財務体力があったかどうかは疑問が残る。


でも変わらなかったかもしれない要素

歴史は一つの買収の決断だけでは変わらない。

ストリーミングの台頭はNetflixだけでなく、YouTubeの登場(2005年)・Amazon Prime Video・Huluなど、多くのプレイヤーが参入した結果として現在の形になった。ブロックバスターがNetflixを持っていたとしても、Googleが買収したYouTube・AmazonのPrime会員優遇・AppleのiTunesという競合の流れは変えられなかっただろう。

また、ブロックバスター自身の財務問題——2004年以降に顕在化した多額の負債——はNetflixとは独立した問題だった。レンタル店舗の賃料・人件費・在庫管理というコスト構造は、デジタル化によって根本から否定されるものだった。


現代への教訓——「今のビジネスモデルの守り」が「次の変化」を見えにくくする

ブロックバスターの事例でよく語られるのは「延滞料というビジネスモデルへの依存が、延滞料をなくすNetflixの価値を正当に評価できなくした」という解釈だ。

自社の「稼ぎ頭」を脅かすように見えるものは、過小評価されやすい——これはブロックバスターだけでなく、多くの企業の意思決定に共通するパターンとして研究されている。

「イノベーションのジレンマ」(クレイトン・クリステンセン著)が指摘したこの構造は、現代の企業にとっても依然として有効な問いを投げかけている。


関連する本・映画

Netflixとブロックバスター、「未来の見落とし方」を学ぶために。


本稿の史実部分は、リード・ヘイスティングス著「NO RULES RULES」(邦題: NETFLIXの最強人事戦略)、アラン・ドーン著 Netflixed: The Epic Battle for America's Eyeballs 等をもとに構成しています。2000年の交渉の詳細については関係者の証言に若干の違いがあります。

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