もしも研究所

もしも、BlockbusterがNetflixを買収していたら?

企業が未来を見落とした日 · 2026-06-02 · 約3,600字 · 約8分

この記事は、特定の個人や企業を断罪するためのものではありません。 公開されている資料や報道をもとに、ある時代の選択肢を振り返る思考実験です。 実際の歴史は一つの判断だけで決まるものではなく、経済・技術・制度・人間心理が重なって動きます。


2000年頃。

アメリカのレンタルビデオ最大手 Blockbuster(ブロックバスター) は、全米に数千店舗を展開する巨大チェーンでした。週末に家族で店を訪れ、棚から借りたいビデオやDVDを選び、延滞すれば延滞料を払う——それが、当時の映像消費の当たり前でした。

一方、創業間もない Netflix(ネットフリックス) は、郵送でDVDを貸し出す小さな会社にすぎませんでした。延滞料がなく、定額で借り放題という仕組みは新しかったものの、規模ではBlockbusterの足元にも及びませんでした。

複数の報道・関係者の回想によれば、このころNetflix側からBlockbusterに対し、買収・提携を打診する場面があった と伝わります。しかし、その提案は実を結びませんでした。

その後、Netflixはストリーミング配信へと事業を転換し、世界的な映像配信企業へと成長します。そしてBlockbusterは、2010年に経営破綻 しました。

ここで、本記事の「もしも」を立てます。

もし、あのときBlockbusterがNetflixを買収(あるいは提携)し、その郵送モデルとストリーミングへの志向を取り込んでいたら——ストリーミングの覇権、レンタル店という業態、映像産業全体は、どう書き直されていただろうか?

🌀 The IF Lab 編集部より:

本記事は、買収・提携の打診があったと伝わる史実を踏まえ、その判断が一段階だけ違っていたらという限定条件で反実仮想を行います。Netflixが存在しなかった、という前提崩壊型ではありません。


1. 実際に起きたこと(事実の確認)

流れを最小限に整理します。

2000年前後:二社の力関係

提携・買収の打診と不成立

その後の分岐

ここで重要なのは、当時の合理的な経営判断が、長期では大きな分岐になった ということです。本記事の「もしも」は、この判断に絞ります。


2. 分岐点 ——『見落とし』はどこで起きたか

Blockbusterが新興モデルを取り込めなかった要因は、おおまかに整理すると次のようなものが挙げられます。

  1. 既存収益の強さ:店舗・延滞料を含む既存モデルが高収益で、それを脅かす新モデルへの投資判断が鈍りやすかった(いわゆる「イノベーションのジレンマ」)
  2. 将来需要の読みにくさ:郵送・配信が主流になるという確信を、当時の市場環境で持つのは容易ではなかった
  3. 組織の慣性:数千店舗を運営する組織は、業態転換よりも既存業態の最適化に向かいやすい

IFの前提

ここでの「もしも」を具体的に絞ります。

2000年前後、BlockbusterがNetflixを買収または提携で取り込み、店舗網という強み郵送・配信という新モデル を同じ屋根の下で並走させていたら——。

これは「既存事業の高収益に目を奪われず、新モデルへの賭けを一歩だけ早く決断していたら」という条件です。


3. 世界はどう変わるか(短期・中期・長期)

短期:ハイブリッド型レンタルの登場

買収が成立していれば、「店舗で借りる」「郵送で借りる」を併用できる、ハイブリッド型のレンタルサービス が早期に成立した可能性があります。店舗網は、受け取り・返却の拠点や、宣伝接点として活かせたかもしれません。

中期:ストリーミングへの移行の主導権

Blockbusterのブランドと資金力に、Netflixの技術志向が組み合わさっていれば、ストリーミングへの移行を 既存最大手が主導する 形になった可能性があります。これは、業界の構図を大きく変えたはずです。

長期:映像産業の地図

ただし、ここで慎重さが必要です。買収が成立しても、巨大な既存組織の中で、新モデルが十分に育てられたか は別問題です。

歴史を振り返ると、大企業が有望な新事業を買収しても、既存事業との利益相反や組織の論理で、新事業がうまく伸びない例は数多くあります。買収という「正解の入り口」に立っても、その後の経営の意思が伴わなければ、結果は変わらなかった可能性もある——という見方が必要です。


4. でも、変わらなかったかもしれない要素

リアリティチェックとして挙げます。

つまり、買収が成立すれば「ストリーミングの主導権」は変わり得た一方で、配信時代の到来そのものや、世界的なサブスク化の流れまでは——慎重に見る必要があります。歴史は一つの買収だけでは動かない、ということです。


5. 現代への教訓

この「もしも」から引き出せる教訓は、おそらく二つです。

ひとつは、いちばん儲かっている事業が、いちばん判断を曇らせる ということ。高収益の既存事業は、新しい脅威を「小さなもの」に見せてしまいます。延滞料という確実な収益が、配信という不確実な未来への賭けを、合理的に見えにくくした——という構図です。

もうひとつは、「正しい入り口」に立つことと、「正しく育てる」ことは別 だという事実です。仮に買収していても、組織の論理が新事業を窒息させた可能性はある。これは、買収・新規事業に関わるすべての組織への、静かな警告です。


6. 最後の問い

歴史を変えるのは、巨大な戦略転換ではなく、目の前の高収益を疑い、不確実な未来に席を空けられたかどうか という、静かな分岐点だったのかもしれません。

私たちもまた、いま「うまくいっていること」に安住して、次の波を小さく見積もっていないでしょうか。


この「もしも」を、別角度で読み広げる

Blockbusterの破綻とNetflixの成長、そして「イノベーションのジレンマ」は、ビジネス書でも繰り返し検証されています。

理論 — なぜ優良企業は負けるのか

イノベーションのジレンマ(増補改訂版)

クレイトン・クリステンセン著。優良企業がなぜ破壊的な新技術に敗れるのかを論じた古典的名著。Blockbusterの判断を理解するための、まさに教科書的な一冊。反実仮想の前提となる構造理解に。

※当サイトは Amazon アソシエイト・プログラムの参加者です

他の書店・関連作品でも

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🌀 編集部メモ:

本記事は反実仮想(歴史IF)です。Blockbusterへの買収・提携の打診に関する経緯は、関係者の回想録・報道に基づくもので、細部には諸説があります。破綻時期・店舗数などの数値は公表資料に基づく概数です。

📚 諸説ある題材です

Blockbusterへの買収提案の具体的な金額・時期・やりとりの内容は、出典によって細部が異なります。本記事は、企業や個人を断罪するのではなく、経営判断の構造(イノベーションのジレンマ)として控えめに整理しています。

※別の解釈・反論も歓迎しています。気持ちよく読める形でいただけると嬉しいです。


🌀 The IF Lab|もしも研究所 歴史・特許・人間ドラマの事実をベースに、 反実仮想で世界を覗き見る研究所です。

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▸ ほかの「もしも」を読む — The IF Lab(もしも研究所) 👉 https://the-if-lab.com

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