もしブロックバスター以外のレンタル業者がNetflixに対抗していたら
もしも時間 · 2027-01-03 · 約2,949字 · 約5分
この記事は、特定の個人や企業を断罪するためのものではありません。 公開されている資料や報道をもとに、ある時代の選択肢を振り返る思考実験です。 実際の歴史は一つの判断だけで決まるものではなく、 経済・技術・制度・人間心理が重なって動きます。
まず事実——レンタルビデオ産業の崩壊
1990年代、アメリカのレンタルビデオ市場はBlockbusterが圧倒的なシェアを持ち、世界9,000店以上の店舗を展開していた。日本でもTSUTAYAやゲオがビデオレンタル市場を形成し、週末に家族でビデオを借りに行くことが生活の一部になっていた。
1997年、Netflixが郵便によるDVDレンタルサービスとして始まった。店舗不要・延滞料なし・サブスクリプションというモデルは、当初は小規模だったが着実に会員を伸ばした。2007年にはストリーミング配信に本格参入し、2008〜2010年にかけてストリーミングが普及期を迎えた。
この間、Blockbusterは2000年代後半にオンライン対抗サービスを開始したが、組織的な対応の遅れと財務状況の悪化から2010年に連邦破産法第11条の適用を申請した。日本でも2000年代後半からレンタルビデオ店の閉店が相次ぎ、TSUTAYAは2019年以降大規模閉店を続けている。
なぜ「ブロックバスター以外の対抗者」が分岐点なのか
Blockbuster対Netflixという構図は多くの場所で語られている。しかし「なぜBlockbuster以外の誰かが対抗しなかったのか」という問いは、あまり掘り下げられることがない。
レンタル市場には複数の大手がいた。米国にはHollywood Video、Movie Gallery、Family Video。日本にはTSUTAYA、ゲオ、ビデオ館などが存在した。これらのプレーヤーが単独または連合してNetflixに対抗するシナリオは可能だったのか。また、通信事業者・コンテンツ制作会社・テレビ局が先にストリーミング事業を立ち上げていたら、Netflixの台頭を阻めたのか。
分岐点——2000〜2005年、誰かが先にストリーミングを作れた時代
最大の分岐点は2000〜2005年だ。この時期、ブロードバンドが普及し、動画をインターネットで配信するインフラが現実的になりつつあった。同時期にiTunesが音楽配信の可能性を示し、「デジタル配信が産業を変える」という空気が広まっていた。
もしこの時期に、映画スタジオ・テレビ局・通信事業者のいずれかが「郵便DVDレンタルを飛ばしてストリーミング直行」という戦略を取っていたとしたら、Netflixはニッチなプレーヤーのままだった可能性がある。
また日本では、TSUTAYAが持っていた会員基盤・作品ライセンス・全国店舗というインフラは、ストリーミングサービスの立ち上げに十分な資産だったとも言える。
IFルートA——ハリウッドスタジオ連合が2004年頃にストリーミングサービスを共同設立
控えめな可能性として、Paramount・Universal・Warner Bros.などのスタジオが2004〜2005年頃に合同のストリーミングサービスを立ち上げていたシナリオがある。
スタジオはコンテンツを持っている。プラットフォームが必要なだけだ。この形は後にHuluとして実現したが(2007年設立)、それより3年早く、かつより多くのスタジオが参加した形で立ち上がっていれば、Netflixのコンテンツライブラリ構築の障壁は高くなっていた可能性がある。
ただし、スタジオ間の競争関係・ライセンス収益への依存・既存の小売店との関係——これらが協調の大きな壁になっていたことは想像に難くない。
IFルートB——日本のTSUTAYAが2005年頃にストリーミングに転換
より具体的な可能性として、TSUTAYAが2005〜2006年頃に全国会員基盤を活かしたストリーミングサービスを本格立ち上げていたシナリオがある。
TSUTAYAは2000年代初頭にTカードという強力な会員インフラを持ち、数千万人規模の顧客データを蓄積していた。ここにオンライン配信を組み合わせることは技術的に不可能ではなかった。
実際の歴史では、TSUTAYAはT-STARMARKSを経てTSUTAYA TVというサービスを展開したが、Netflixの日本参入(2015年)より早く大規模展開に成功した場合のシナリオは、日本のストリーミング市場の構造を変えていた可能性がある。
でも変わらなかったかもしれない要素
Netflixの強さはコンテンツライセンスの量だけにあったわけではない。「ユーザーが使いやすいUI」「パーソナライズされたレコメンデーション」「オリジナル制作への大胆な投資」——これらは後発で追いつくことが難しい、技術的・文化的な蓄積だった。
また、ストリーミング市場は「コンテンツを持っているか」よりも「ユーザー体験を最適化できるか」という競争軸に移っていった。レンタルビデオ店の顧客基盤とコンテンツライセンスは出発点になり得たが、それだけでNetflixを超えることはできなかっただろう。
「誰もが同じ変化の訪れを見ていた時代に、なぜ対抗できなかったのか」——この問いの答えは、技術よりも組織文化・既存事業への固執・意思決定の速度の差にあることが多い。
現代への教訓——市場が変わる時、誰でも先手を打てる
Netflixとレンタルビデオ産業の変化が示すのは、「技術を持っていなくても、変化に気づいた者が新市場を取る」という構造だ。
Netflixは当初、映画の作り手でもスタジオでもなかった。ただ「配送コストを下げて、延滞料をなくして、ユーザーを月額で囲む」というビジネスモデルの変換を先にやっただけだった。
同じ変化の中で、なぜ大きなインフラを持つ既存プレーヤーが先手を打てなかったのか——この問いは現代のあらゆる産業に通じる。テクノロジーより、変化への意志と組織の敏捷性が決定的だった。
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本稿の史実部分は、各社公式資料・経済誌報道・業界研究をもとに構成しています。企業の内部意思決定については非公開情報も多く、本稿はあくまで公開情報をもとにした思考実験です。
